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東京地方裁判所 平成11年(ワ)12763号 判決 1999年9月17日

原告

大成商事株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人支配人

被告

ニツコーデンテイー株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

山本隆夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金二〇五万七〇〇〇円及びこれに対する平成一一年五月二五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

第二事案の概要

原告は、株式会社ベスト・オン・ムービング(以下「ベスト」という。)に対する貸金債権を担保するため、ベストの被告に対する売掛債権につき譲渡担保権の設定を受け、債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「債権譲渡特例法」という。)同法二条一項による登記(以下「本件登記」という。)を経由した上で、被告に対し、債権譲渡のあったことを通知し、同条二項による対債務者の対抗要件を備える趣旨で、本件登記の登記事項証明書の写しを交付して通知をした。

本件は、右事実関係を前提として、原告が被告に対し、主位的請求として、右売掛債権の支払を求め、予備的請求として、被告において、原告が右売掛債権の譲渡につき第三者対抗要件(本件登記)を備えたことを知りつつ、右売掛債権の他の譲受人のみを被供託者とし、原告を被供託者としないで供託したことが不法行為に当たると主張して、右売掛債権と同額の損害賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実等

1  ベストは、被告に対し、平成一一年四月五日当時、合計金二〇五万七〇〇〇円の売掛債権(以下「本件譲渡債権」という。)を有していた(≪証拠省略≫)。

2  原告は、ベストに対し、同年四月五日、弁済期を同月一九日として二〇〇万円を貸し付け(≪証拠省略≫)、同月六日、弁済期を同月二〇日として八〇〇万円を貸し付けた(≪証拠省略≫)。

3  原告は、ベストとの間で、同月五日、2のうちの最初の二〇〇万円の貸金債権及び将来原告がベストに対して有すべき債権を担保する目的で、ベストが被告に対して有する同月五日から平成一六年四月四日までの売掛債権につき、一〇〇〇万円に満つるまでの限度で譲渡する旨の譲渡担保契約を締結した(以下、右契約による債権譲渡を「本件債権譲渡」という。)。

4  本件債権譲渡につき、平成一一年四月六日一五時九分、債権譲渡登記ファイルに譲渡登記(本件登記)がされた。

5  原告(担当者D)は、同月一九日被告に電話して、本件債権譲渡に基づきベストの被告に対する売掛金についての支払を求める旨を述べたところ、被告従業員のEは「ベストの売掛金に関しては現在調査中である」と言い、支払を拒んだ。

6  原告は、被告に対し、同月二〇日配達の内容証明郵便によって、本件債権譲渡及び本件登記のあったことを通知した(≪証拠省略≫)。

7  被告は、ベストと外注契約を締結し、エレベーターの点検補修や産業廃棄物の運搬などの業務をさせており、同年四月一七日以降右外注費に係る債権を譲渡した旨の内容証明郵便が何通も配達されたので、弁護士に相談した上で、同年五月一七日に六七万二七三五円を(≪証拠省略≫)、同月二五日に一三八万四二六五円(≪証拠省略≫)を、右債権譲渡について最初に配達された二名(訴外F及び訴外G)を被供託者として供託した(以下、右各供託を併せて「本件供託」という。)。

8  原告は、被告に対し、同年六月五日、本件登記についての登記事項証明書の写しの一部を交付した。

9  本件供託に係る供託金は既に還付されている。

二  争点

1  登記事項証明書の写しの交付による通知が、債権譲渡特例法二条二項にいう「登記事項証明書を交付して通知し」た場合に当たり、原告が本件債権譲渡に係る債権の債務者である被告に対する対抗要件を具備したと認められるか。

(原告の主張)

本件において、被告が送付した登記事項証明書が原本ではなく写しであるからといって、その内容が、原告が被告に対して送付した債権譲渡通知書に記載した譲渡の登記に関する事実に反するものではない以上、原告は債務者に対する対抗要件を具備したと認められるべきである。

(被告の主張)

原告は、被告に対し、登記事項証明書の写しの一部を交付したに過ぎず、未だ登記事項証明書の原本を交付していないのであるから、債務者に対する対抗要件を具備していない。

2  被告は、原告に対し、平成一一年四月一九日、本件債権譲渡につき承諾をしたか。

(原告の主張)

原告は、同年四月一九日、被告従業員のEに対し、本件債権譲渡及び本件登記のあることを話したが、その際右Eは右に係る債権譲渡につき承諾をした。

(被告の主張)

被告従業員のEは、原告に対し、右同日、「訴外ベストの売掛金に関しては現在調査中である。」と言ったにすぎないのであって、右Eが原告に対して右につき承諾をした事実はない。

3  被告が、本件登記のあることを知りながら、本件供託をしたといえるか、その結果原告が本件供託に係る債権につき弁済を受ける機会を失ったということが、被告の原告に対する不法行為を構成するか。

(原告の主張)

被告は、本件登記のあることを知りながら、原告を被供託者から除外して本件供託をし、原告が本件供託に係る債権の弁済を受ける機会を、過失により喪失せしめたものであり、これは原告に対する不法行為を構成するから、被告は、原告に対し、主位的請求と同額の損害賠償をしなければならない。

(被告の主張)

原告が本件供託に係る債権の譲渡につき被告に対する対抗要件を備えていない以上、被告において、被告に対する対抗要件を具備した債権譲受人を被供託者として供託することは当然のことであり、何ら不法行為を構成しない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

本件は、金銭債権の譲渡に係る債務者に対する譲渡通知が譲渡人からされずに、譲受人からされた事案であるところ、債権譲渡特例法においては、民法上の指名債権譲渡の場合とは異なり、債務者に対して譲渡人のみならず譲受人も通知することができるとされている。これは公の機関が発行する登記事項証明書の交付を要件とすることにより、自称譲受人による譲渡証の偽造その他による虚偽通知の弊害を防止できるからであると解されるので、右登記事項証明書の交付がその写しの交付で足りるとすると、その趣旨を達成することができなくなる恐れがある。譲渡人による通知の場合はかかる弊害はないので、登記事項証明書の写しの交付であっても、二重譲受人相互間の優劣の基準となる譲渡の登記の日時を債務者に知らせることが可能と考えられるが、写しで足りるとすれば、登記事項証明書の全部の写しが必要か一部の写しで足りるかなどの問題が生じ、債務者は債務者対抗要件の具備の有無につき困難な判断を強いられることが考えられ、債権譲渡特例法の目的である債権譲渡の円滑化・迅速化を阻害することになりかねない。以上からすれば、少なくとも譲受人からの登記事項証明書の写しの交付による債権譲渡の通知は、債権譲渡特例法二条二項の「登記事項証明書を交付して通知し」た場合に当たらないと解するのが相当である。

したがって、原告は、本件債権譲渡につき、被告に対して債権譲渡特例法二条二項が規定する対抗要件を具備したと認めることができない。

二  争点2について

被告が原告に対し本件債権譲渡につき承諾をしたとの事実を認めるに足りる証拠は全くない。

以上によって、その余の点について判断するまでもなく、原告の主位的請求は理由がないことになる。

三  争点3について

本件供託がされた時点においても、現時点においても、本件債権譲渡につき原告は債務者である被告に対する対抗要件を備えていないのであるから、本件供託が違法であるとは認める余地がなく、本件供託をした被告の行為は、その余の点について判断するまでもなく、原告に対する不法行為となり得ない(そもそも、右供託は一種の弁済行為であり、それが有効な供託であれば被告は免責されるのであり、無効であれば原告の権利を何ら左右しないのであるから、結局右供託行為が原告に対する不法行為となることは、基本的に考えられないのである。)。したがって、原告の予備的請求も理由がない。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤剛)

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